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「幸せって何だろう」


私の家は、家族で運送業を営んでいます。
なので仕事で使う車があり、ジャフが発行しているジャフメイトという冊子が毎月届くのですが、とても素敵なコーナーがあります。
「幸せって何だろう」
私が大好きな作家さんが書いていることが多く、毎月の楽しみです。
そして、私だったら、というのを今回書きたいと思います。

「幸せって何だろう」

私は、美術の高校に通っていたのですが、とても危うい子でした。
不登校気味だった中学生時代。絵を描くことが好きと言う理由だけで進路を決めて、そもそも高校に通うことが出来るのかも解りませんでした。
私にとって、教室は恐怖でした。
自分の席に、座らないといけない恐怖。
なので、私は廊下に座って居ることが多かった。
けれど、何一つ不幸ではなかった。
干渉しないけれど、幽霊扱いするのではなく。
ふらりと教室に入っては、すんなり受け入れてくれて。
廊下に居たいのならば、一言二言、声をかけてくれて。
私という、危うい存在を、変えるのではなく、そのまま受け入れてくれて。
私との距離のとり方が、とても上手なクラスメイトたち。
なので、私は驚くほど、高校生活が楽しかった。
そんな、高校時代から、早いもので10年以上経ち。
危うかった私は、真面目に仕事をして、真面目に社会に関わっている。
そんな私にとって、幸せとは、私が幸せであれば、周りを安心させられることなのだ。
私が毎日、笑顔で過ごし、ご飯をちゃんと食べて、ときには遊びに出かけて。
そういう、普通の毎日を過ごしていると、何より、家族や友達が安心するのだ。
大切な人を大切にするには、まず自分を大切にしないといけない。
そのことを、肌で感じています。
今、私は昔からは考えられないほど、前を向いて。
家族や友達にも恵まれ、不幸とは無縁のところに居る。

今でも、私の心はあの廊下にある。
教室から聞こえる、楽しそうな笑い声。
その声が聞こえる、温かい廊下。
私も、ちゃんと、そこに居るのだ。

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はるか【日向ウララ】

はるか
日向ウララ


「私」


鏡って、私にとっては特別で。
中学一年生のとき、お母さんからプレゼントされたのがきっかけ。
それまでの私は、活発で男の子みたいな女の子だった。
でも、あなたも女の子なんだからと、お母さんが言ったのだ。
女の子の制服。
スカート。
手鏡。
そのとき、私は女として生きていかないといけないことを、突きつけられた。

鏡を貰う少し前。
活発で男の子みたいだった私は、女の子達からいじめを受けた。
中学生になって、いじめていた人達とは別の学校になって、あの日々は終わったけれど。
私は、人間が大嫌いになった。
きっと、これからも好きになることは無いだろう。
もう、好きだった頃の私には戻れないから。
私は、私も含めた人間が嫌い。
きっと、恋をすることも出来ない。
私は、それらを、失ったのだ。
そのとき、私には大切なお友達がいた。
けれど、私がいじめられているとき、そのお友達は私の元を去った。
大好きなのに、そのお友達を理解できない部分があった。
そして、もう一つ気付いた。
相手は私ほど。
互いのことを理解しようとは思ってくれていない。
頭では理解しようとした。
私の元を去ったことには理由があって、彼女も辛い思いをしたのだと。
私は誰のことも責めなかった。
ただ。
運が悪かったのだと、泣き寝入りしたのだ。
そして、それが一番の策だった。

人は、いつだって感動に飢えている。
私はもう、何も感じない。
何も感じないという不幸。


「アンドロイド」


アンドロイドは、人間を助けるために作られた。
だから、アンドロイドは人間を好きになるよう、プログラムされていた。
しかし、一つだけ。
人間のことが嫌いなアンドロイドがあった。
それは、人間の心を数値化し、理解することが出来るアンドロイドだった。
このアンドロイドだけは、人間のことが嫌いだった。

教室は、私にとっては世界の縮図のようなもので。
異なる文化の異なる人種が集まる場所。
私はそんな世界から隔絶されるために、ヘッドフォンをしてノートに向かっていた。
ノートの中は私だけの世界。
私が作る、私の為の世界。
梅雨が明けて、もうすぐ夏になる。
まだ、夏服には変わっていないのに、今日は真夏並みの暑さだった。
じっと座っていても汗をかき、お尻が熱い。何度も座り直してはスカートの位置がしっくりこないので、微かに苛立つ。
そして、その苛立ちにはもう一つ原因があった。
書いている物語に、行き詰っていたのだ。
動物を好きになる?
純真無垢な女の子を好きになる?
ありきたり。
そもそも、アンドロイドが何かを好きになるなんてありえないわ。
私は、大きく息を吐いて背伸びをした。
すると、突如視界に現れた、興味津々の瞳。
「何してるの?」
その瞳は、一度も話したことが無いクラスメイトのものだった。
長い髪をポニーテールにしていて、背ばかり高い。
「ねぇ、お話はハッピーエンドが好き?」
「もちろん! 幸せになって欲しい。でも、切ないのも泣けちゃう!」
ころころ変わる表情が、とても愛らしかった。
この日は、ここでチャイムが鳴り、廊下側一番前の席に帰っていった。

「何してるの?」
次の日にも、同じように話しかけられた。
そして、同じように興味津々の瞳。
まぶしいくらい、キラキラしている。
「楽しいことの後には、必ず辛いことが待ってる気がしない?」
「ええー? もっと、ラクに考えなよ」
私の机に半分だけお尻を乗せる。
「転ばぬ先の杖、石橋を叩いて渡る、備えていないと立ち直れないんだもの」
「ふうん」
そういうもんかーなんて足をぱたぱたさせて、微かに不満そうだ。
「大きすぎる幸せって不安で、手に収まる位がちょうどいいのよ」
「おっぱいの話?」
「ばか」

今日も、そろそろ来るかしら。
今日は少しだけ、ボリュームが小さいの。あなたの足音を聞きたくて。
にぎやかな教室、私以外が笑っていて、私以外が楽しい教室。
とん、とん、とん。足音が近づいてきて、ふわりとグレープフルーツの匂いがした。
「何してるの?」
「ねぇ、価値って何なのかしら」
「それ! 私も思う」
手を叩いて同意し、饒舌に話し始めた。
「この前、私は好きなアーティストのライブに行きたいってお母さんに言ったらね、そのチケット高いじゃん? お母さんに、その人はそんなに価値のある人間なのかって聞かれて、おかしいって思った!」
ふむふむ、あなたはそういう考え方をするのね。
「私は価値って、今必要なものを、今手に入れることだと思うけど」
「そう! 今! 何よりも価値があるの! あ、大田《おおた》さんいつも音楽聴いてるよね? どんなの聴くの?」
「これとか、おすすめ」
私は、付けていたヘッドフォンを差し出す。
微かに、指が触れた。

そうだ、アンドロイドも。
一人で悩まず、抱え込まず、いろいろな人間と出会うべきなんだ。
中にはやっぱり嫌いな人も居て。
中には少し好きになる人も居る。
アンドロイド。
あなたには理屈しかない、数字しか正しくないのね。
生身の人間の体温を知らないんだわ。
出会えばいい。
出会い続ければいい。
嫌いなら嫌いでいい。
でも、それはデータではなく、あなたの経験。


「少女」


夏休み前のテストも終わって、一気に教室は浮き足立っていた。
中には夏休みは補習があったり、部活がある人も居て、家族で旅行に行く人なんかも居る。
今年の夏は特に暑いから、夏に楽しいものは、更に楽しいのだろう。
雨が降ればいいのに、台風が沢山くればいいのに。
そんな心境になるくらい、私は行き詰った。上手に話が進まないのだ。
素人のやることなんて、こんなもんなのか。
でも、私には変化があった。
ヘッドフォンをしなくなった。
「やっほ」
毎回話しかけてくる彼女の苗字は、谷崎《たにざき》さん。
私の前の席に座ったけれど、私は顔を上げずに唸った。
谷崎さんは私の髪の毛を三つ網みにしている。
「ねぇ、なんで書こうと思ったの?」
「変かしら」
「ううん、単に興味があるの。私には出来ないことだから」
「そうね、現実逃避かしら」
「現実かぁ、難しいね」
出来た、と谷崎さんは自分のヘアゴムで、私の髪を留める。
スカートのポケットから花の形のミラーを出し、私の顔の前に差し出す。
そして、そのミラーの後ろから、首をかしげて微笑み、こう言った。
「ね、私をストーリーに出してよ」
それは、私の頭に雷を落とした。

その少女は、何を食べてもまずいと感じる。
その病気を治すには、人間を好きにならないといけなかった。
そんな少女が生み出されてから、私は寝ることすら惜しいほど、のめりこんでいった。
飢えた獣のように。水を求める魚のように。
寝ても、夢に見るのだ。
今、目の前に広がる世界が、リアルなのか幻想なのかも解らなくなる程に。
そして、私自身、食べることが疎かになり、こだわりがなくなっていた。
昼休みに、私はお弁当を広げずに、ノートを広げていた。
そこに、谷崎さんが静かに座る。
私は匂いで気付く。
「ねぇ、大田さんの大切なものって何なの? 友達ではないとは感じるけど」
「そうね、自分らしさかしら。人はすぐ自分らしさを見失うから、意識的に大切にしないと」
「ね、口開けて」
私は大人しく従う。
ぽいと投げこまれたのは、甘いキャンディ。
「がんばれ」
キャンディの甘さが、体に染み渡って。
私は、リアルに踏み留まれている気がする。
「……美味しい」
コロンと舌で転がす。
アンドロイドは、人を好きにならないといけない理由がわからなかった。
少女は、人を好きになりたかった。
アンドロイドは理解したかった。
少女は理解して欲しかった。
何を食べてもまずいと言ってしまう少女に、アンドロイドは何も言わなかった。
嫌な思いもしなかった。
アンドロイドはただ、そうですか、とインプットした。

少女はアンドロイドの歌が好きだった。
少し、食べ物が美味しく感じた。
少女は悲しむ。私はなぜ、こんなに満たされているのに、幸せではないのか。
アンドロイドは答える。それは、幸せに明確な定義も答えもないから。
この瞬間、私は気付いてしまい、冷や汗をかいた。
私は、アンドロイドの物語を書こうとしていたのに、いつの間にか、少女のことを書きたくなっている。
アンドロイドは、誰?
少女は、誰?
アンドロイドは、少女のことが、羨ましいんだ。
そうか。
羨ましいという感情が、人を不幸にするんだわ。

次の日のお昼休み。
私は、鎖で繋がれているのではと思う位、頑なに動かなかった自分の席から立ち上がった。
そして、谷崎さんの前に立ち、お弁当を食べましょうと言った。
「あれ? 書かないの?」
「書き終わったの」
「そ、そっかぁ!」
私達は教室を抜け出し、中庭へ歩き出した。
中庭には大きな花壇があって、色とりどりの花が植えられてる。
その前のベンチに、並んで腰掛ける。
「ベンチ熱くなってる」
「本当ね」
私はスカートが相変わらず綺麗に納まらず、何度も座り直す。
「もう少し短くしたら?」
「まくるとウエストがごわごわするから嫌なのよ」
「切っちゃえば?」
「服装点検のときどうするのよ」
「だよねぇ」
今日は、湿度も高いのか、風が生ぬるい。
「結局、ストーリーのラストは、アンドロイドと少女の間に生まれた絆、それが大切。そんなところよ」
「ハッピーエンドだね」
「そうね」
「私もさ、大田さんとこうやって話せて、嬉しかったよ」
そう、にっこりと微笑まれて、私自身が物語の一部であったことを悟った。
「あらあら、なんてチープなお話なのかしら」
可笑しくて、私も笑ってしまった。
「でも、物語はここに終結するのね」
私は人間の内側が知りたくなった。
その人が何を考えるのか、知りたい。
目に見える部分と見えない部分。
明確に。
私はいじめを受けてから、見えない部分に興味を持つようになった。
それは、理解したいから。
なぜ、あの時、私の大好きなお友達が、私の手を離したのか。
理解して、わかりあいたい。
何もかも乗り越えて、笑顔で。
「私は、人間が嫌いで、好きになれないけど、でも、あなたは、私に必要な存在だわ」
「うれしい」
あなたは、私にとって、無だった。
先入観も偏見も無く、ただ、私に問いかけた。
面倒くさがらず、一つ、一つ。
話を、した。

なぜ、私は。
立ち直ったフリをしないといけないのか。
なんてことないわ、大げさよ、なんて気丈に振舞わないといけないのか。
だって、本当は今でもグツグツ煮えたぎっていて。
許せるはずがない。
殺してもなお、憎しみは収まらない。
私は、馬鹿みたいに真っ直ぐで。
馬鹿みたいに、希望に溢れていた。
馬鹿のままで居たかった。
でも、私は。
考えること、を身に着けた。
そして、物語を書きたいと思った。
私は人間が嫌いだけど。
人間が作り出した何かには、興味がある。
それは、小説だったり、歌だったり、なんでもいい。
私は、それらを作り出す側に回りたくなった。
不幸なことに、私は。
いじめられたことで、やりたいことを見つけたのだ。
「このお話、タイトルがないの」
「二人で考えよ!」
谷崎さんは、相変わらずきらきらした瞳で、そう言う。
私は、ゆっくり首を振る。
「いいえ、このままがいいわ」
小説や漫画や、そういうものは。
その作品が大きな存在になってしまうと、作者の手から離れていく。
私はこの小説を完成させない。
いつまでも、その手を離さない。
だから、タイトルの無い、未完成のままでいい。
評価や名誉や、何もいらない。
ただ、書けたことだけが嬉しい。
「きっと、決めてしまえばつまらないものになるわ」
でも、あえて付けるとしたら。
私は、あなたの名前をタイトルにしたい。
そして、いつかあなたと、名前で呼び合う仲に。
でも、まずは、あなたの夏休みの予定を聞くところから。

―終―

【3】ハルカカナタ【日向ウララ】

「三十五歳a 十二月二十八日」


 私が学生のときに授かった子供は、なんのいたずらか、とても頭が良かった。
 小さい頃から英語が好きで、英会話に通わせると、先生が興奮しながら、この子は頭が良いと言った。
 私は、よくお風呂で英語の歌を歌っていたなぁとしか思い当たらなかった。
 頭が良くても悪くても、私達の子供に変わりは無いから。
 子供が子供らしく甘えてくると、私はとても安心した。
 けれど、それは私に気を使っていたのかもしれない。
 周囲を観察して、そのときに最善の行動を取ることができる子だったから。
 どういう繋がりかは知らないが、エアメールが届くことがしばしばあった。
 海外にペンフレンドが居るらしい。
 私が、何の気なしに、凄いねと褒めると、息子はこう言った。
 お母さん、僕は普通の子供じゃなくてごめんなさい。
 家庭での私には、怒ってもいい権利が無かった。
 でも、このときは怒ればよかったのだ。
 謝ることない、と。
 そして、どんなあなたも愛していると。

 十五歳になり、受験で慌しい毎日を送る中、息子はこう言った。
 アメリカの高校に通いたい。
 話を聞くと、留学やホームスティではなく、これから先ずっと、海外で暮らして生きたいらしい。
「自分の居る場所は、日本じゃない気がする」
 私はその言葉を、思春期だからで片付けてはいけない気がした。
「周りのみんなを馬鹿にするつもりは無い、むしろ好きなのに、どうしても上手くなじめないんだ。どこか、自分は違うと感じる。冗談交じりにバカだなぁと笑うことがものすごい悲劇につながるイメージをしてしまう、怖くて仕方が無い。この世の中の仕組みに、僕は順応できないんだ。でも、僕は外国語だけは、必死に勉強したい」
 息子が感じる、漠然とした世の中。
 そして、そこに居ることの、息苦しさ。
 私は世の中の仕組みの中でしか生きられないので、ぴんとはこなかった。
「お父さんも、お母さんも、僕なら何でも出来ると信じないで欲しい。僕に何も期待しないで欲しい。諦めて欲しい。ただ、生きたいように生きたい」
 けれど、私は、この手を離してはいけないことだけ、察した。
 私は、息子の手をきつく握った。
 私の想いの強さを感じて欲しい。
「お母さんは、よく食べて、よく寝て、よく遊んで。そうやって毎日笑って生きてくれれば、それでいい」
 息子はやりたいことを見つけ、前を向いていた。
 そして、最早親の手を離れるのだ。
「お母さん、お父さん、二人の子供に生まれて良かった」
 この世の中に、悲観しないよう。
 悲しいことばかりでは無いんだよ。
 私は、自分ほどある息子を、しっかりと抱きしめた。

「君は本当に優しい、素敵なお母さんだよ」
「でも、私は損ばかりするの」
「優しくなかったら、損をすることも出来ないさ」
 その日、寝室で夫がそう言った。
 私のおでこにキスをして、眠りに付いた。
 相変わらず優しくて、家族を大切に思っている、素敵な夫。
 私は、好きな物を嫌いになりたくない。
 好きな物が形を変えても、受け入れることしか出来なかった。
 好きな物を嫌いになる方が辛いから。
 私は相手に合わせて変わらないといけなかった。
 私と言う形は無かった。
 淡いグリーンのカーテンから覗く、にっこり穏やかに微笑む、月。

 今、こんなに綺麗な月を、カナタも見ているかしら。
 とても、綺麗ね。


「三十五歳b 十二月二十九日」


 ぼたぼたと、雪が降っていた。
 気温は温かいのか、水分の多い雪だ。
 仕事が終わったのが十一時過ぎ。家に着いたのが十二時少し前。
 真っ暗で、冷たい部屋は牢獄のようだ。
 私は電気も付けずに、ベランダから外を眺めた。
 最近親しくなった後輩は、生きることにとことん手を抜く。
 しなくていいことはしない。そこに意味を見出せない。
 そういう子だ。
 けれど、この子は異常に占いを信じる。
 話を聞いても、そうなんだとしか思えなかったが、私は興味が無い訳でもなかった。
 私とハルカの繋がりは、何かに導かれているようで、運命的だから。
「先輩って、ずっとイライラしていて、毎日つまらなそう」
 毎日が楽しいかなんて解らないし、そんなに能天気でもない。
 アイディアを出し続ける苦痛を知らないのだ、この子は。
 根っこが無く、しかし葉だけは茂っている。
 ある日には、起業の話を持ちかけられた。
 私は仕事のパートナーにするなら、仕事に厳しい人が良い。
 これは、恋人でもそう。
 どこか、厳しい人に惹かれる。
 手のひらを、差し出してみる。
 雪はすぐに水滴に変わった。
 最近の私は、もっぱら年下の男とばかり付き合っていた。
 私の体は歳をとるごとに、熟れていった。
 恋をすれば、恋をするだけ飢える。
 恋をしなければ、飢えないのか。
 それは、枯れるというのだろう。
「あなたは沢山、素敵な恋愛をしてきたのに、本当に誰かを好きになったことが無いのよ」
 これは、誰に言われたのだったろうか。
 言葉だけ、心に突き刺さって抜けなかった。
「君に、怖いものなんてあるの?」
「無いように見えるのは、私が一つ一つ、怖いものを克服していったからよ」
 私はそう答えた。
 でも、違う。
 本当は怖いものだらけなのに。
 怖い、とすら言わせてもらえないのだ。
「男の人は結婚相手に、太っていても性格のいい女を選ぶのよ、私達は無理よ、女の中で戦い抜いてきたんだもの」
 私は。
 私を取り巻く環境も、家族も、友人も、何もかもが嫌。
 一人になりたい。
 リセットしたい。
 雪はやむ気配が無い。
 厚い灰色の雲に覆われて、空に天井が出来たみたいだ。
 所詮人間は、死ぬ為に生きているのだ。
 十割る三の世界。
 微かに、月が見えた。
 ぼんやりと、淡い。
 こんな日は、星の王子様を読んで、眠ってしまおう。
 私の星には、私しか居ない。

 こんなに残酷で、絶望的な月を、ハルカも見ていますか?
 ああ、ハルカに会いたい。


「ハルカカナタ」


 夢で、ハルカに呼ばれた。
 いつも、ハルカは穏やかに微笑んでいたのに、今回の夢では泣いていた。
 ハルカの隣に、神様が居た。
 一目見て、この人は神様だと感じた。
 その神様はこう言った。
 お前は、大切な物と別れなければならない。
 そして、ハルカに手を向けると、ハルカは沢山の花びらになった。
 ぱっと風に舞い、跡形も無くなった。
 私はただ、ただ。
 何も考えられず、何も感じられず。
 無に、なった。
 目が覚めてからも、私はからっぽだった。
 そして、ハルカの身に何かあったのではと、心配でならなかった。
 しかし、私はハルカの連絡先を知らない。
 ハルカの親しい友達の連絡先も知らない。
 私は祈った。願った。
 ハルカの無事を。

 そのハルカと次に会ったとき、私は確かにハルカの死を感じた。
 ハルカはいつも髪の毛は長くてさらさらだったのに、その髪の毛をばっさりと切っていた。
 私は多少動揺しながら、ハルカの隣に座った。
 私は、打ち合わせが終わって、会社に帰るために、電車に乗った。
 ハルカは、これからどこに行くのだろう。
「どちらまで?」
「あっ」
 私がそう話しかけると、ハルカは顔を上げた。
 しかし、次の駅で降りないといけないらしく、ハルカは戸惑っていた。
 迫り来る次の駅。迫り来る別れ。
「あっ、カナ……」
 ドアが開き、ぱらぱら人が降りた。
 ハルカも降りようとしていた。
 けれど、私はその腕を強く握り、引止めた。
「ハルカ」
 私は、じっとハルカを見つめる。
 ドアが閉まり、再び電車は動き出す。
「ね、果てを見に行かない?」

 この電車の果てには、海があった。
 よどんだ、汚い海だ。
 冷たい風が吹くなか、私達は身を寄せ合った。
「髪、切ったのね」
「ええ、私なりの区切りなの」
 私は、ハルカの短くなった髪の毛をそっと撫でる。
「私も切ろうかな」
 私は鞄の中から携帯ハサミを取り出し、ハルカに手渡した。
「切ってくれる?」
 ハルカは、ためらわずに、ばしばし切りはじめた。
 風が、跡形も無く消し去っていく。
「ああ、すっきりした!」
 私の髪の毛は、程なくしてハルカとおそろいになった。
「切るの上手ね」
「子供の髪の毛、切ってたから」
 ハルカは、微かに遠くを見た。
「カナタは子供いないの?」
「こんなろくでもないのが母親なんて、子供が可哀想よ」
「そんなことないよ、きっと良いお母さんになるよ」
 この子は何て残酷なのだろう。
 知らないから。
 教えてもいないし。
 私は無理やりキスで口をふさいだ。

 でも、あなたはいつだって。
 私が、くじけそうなときに、現れるの。
「私ね、ずっと思ってたことがあるの」
「私もよ」
「いっせーので言う?」
「ふふ、そうね」
 私達は、顔を見合わせて、大きく息を吸った。
「私がハルカだったら良かったのに」
「私がカナタだったら良かったのに」
 言い終わった後、二人でケラケラ笑った。
 でも、解っている。
「私は、カナタじゃない」
「私は、ハルカじゃない」
 さよなら、ハルカ。
 さよなら、カナタ。
 でも、私達はここから始まるのだ。
「ねぇ、由紀《ゆき》さん」
「なぁに? 真里奈《まりな》さん」
「私と、友達になってくれる?」
「もちろんよ」

 二人の笑い声は、遥か彼方に消えていった


―終―

【2】ハルカカナタ【日向ウララ】

「二十八歳b」


 この日、私は大荷物を抱えていた。
 両手がふさがっていて、人の波を裂くように進んでいた。
 そこに、不意にハルカと目があった。
 ハルカは私の方に、なんとか歩み寄り、私の頬を両手で包み込みキスをした。
 ちゅっと触れて、私がもう一度キスをしようと顔を寄せたとき、腕を引かれた。
「あなた、何してるの!」
 すっかり忘れていたが、同僚と一緒だった。
 私は、せっかくハルカと出会えたのに、邪魔するなと目で訴える。
 その間に、ハルカは人波に飲まれていった。
「あの人、どういう関係? なんでキスしたの?」
「だってハルカだから」
 同僚は、座って話しましょうと地下街のコーヒーショップに入った。
 私は話すことなんか無いのに。
「本当、あなたってそうよね」
 どうなんだと聞き返したいが、黙ってコーヒーをすする。
「あなたは美人でスタイルも良くてセンスも良いかもしれないけど、人として逸脱してるわ」
「褒めてくれてありがとう」
 この同僚は何に対しても文句ばかりだ。そして、解決策も無い。
 ただ、文句を言わないと生きられないのだろう。
 この話も、真剣さを感じなかった。ただ、息をするように文句が出てくるのだ。
「この前、付き合うことになった人はどうなったの?」
「別れた」
「まだ一ヶ月しか経ってないわよ! 一ヶ月じゃ相手のこと何も解らないじゃない!」
「あの人と一緒に迎える将来が思い浮かばなくて」
「そんなものは付き合っていれば自然と見えてくるわよ!」
「ナァナァに付き合うって時間の無駄じゃない」
「仕事でもそうだけど、結果を求めすぎね」
 この同僚との話の良い所は、言いたいことを言っても、相手も言いたいことを返してくるとこだ。
 一方的な殴り合いはフェアじゃない。
「あなたは感覚で捕らえすぎよ。目の前の物を大切にしないと」
「なら、仕事を大切にしたいから」
 結局、ここに着地する。
 いつものことだ。
 この同僚は、男に振られてばかりいる。
 私とは正反対なのだが、気の強さだけは似ている。

 次の日、再びハルカと出合ったのは電車の中だった。
 私が電車を降りるときに、窓際に居たハルカを見つけて、首を伸ばしてさっとキスをした。
「また夢の中で!」
 ハルカがそう声を張り上げると、プシューと扉が閉まり重たそうに動き出す。
 私はハルカの乗った電車を見送り、くすくす笑ってしまった。
 ハルカは、夢の中で私と逢瀬しているらしい。
 ああ、なんて可愛くて愛しい、私のハルカ。

 私の長所なのか、短所なのか、男と別れても、すぐ別の男が現れる。
 前回、一ヶ月で別れた後、待ってましたと言わんばかりに、今の男が現れた。
 前の男と出合ったバーの常連で、私達を見てすぐに別れるだろうと直感したらしい。
 そして、私が一人でお酒を飲んでいる所に、声をかける。
 なんてスマートな人なんだろう。
 私はそのスマートさに強烈に惹かれた。
 そして、最早ベッドの中に居る。
 彼の部屋はブルーで統一されていた。安心する色だからと。
 彼のモットーは効率よく。
 私は、彼の匂いを纏う。それだけでいい。衣類は要らない。
 私は、彼の胸にちゅっとキスをした。
 私の頭を彼は撫でる。
 私の唯一の弱点は、肌の色が黒いことくらい。
 ああでも、ハルカは綺麗な、雪のような肌をしていた。
 そうか。
 女の思う恋愛と、男の思う恋愛は、百八十度違うのだ。
 体以外に交わることは無いのだ。
「あなたの中に、神様は居る?」
「考えたことが無いな、でも、君と出会えたことに感謝しないとね」
「私の中の神様はね、私に残酷な試練しか与えないの」
 決して、平等ではないのだ。
 このとき、私は微かに終わりを感じた。
 この、彼との、終わり。
「君は俺の物になる気なんかさらさら無くて、いつだって、自分のことしか考えないんだね」
「だって、私は私だけの物だから」
 再び、彼は私に覆いかぶさり深くキスをした。
 そして、優しく私の体を紐解いていく。
 その先には開放が待っている。
 恋はいつだって。
 始まらなかった方が綺麗で。
 始まった恋は。
 別れる瞬間が綺麗なのだ。


「三十歳」


 その葉書を見たとき、私は自分が哀れでならなかった。
 同窓会のお知らせ、と書かれた往復はがき。
 私が参加することで、誰が喜ぶのだろうか。今も今までも、回りに気を使わせてしまうだけなのに。
 けれど、律儀に私にも声を掛けてくれるのだ。
 しかし、私はそれが偽善に他ならないと感じた。
 参加しないことが、最善なのだ。
 けれど、私には一つだけ未練があった。
 ハルカは来るのだろうか。

 いつも、約束なんかしなくても出会っていたハルカに、改めて会いに行くというのが、気恥ずかしかった。
 欠席と返事をしたが、私は開始時間より少し遅れて、会場に来た。
 きっと、ハルカと会える。
 そう信じて疑わなかった。
 そして、いつだってその望みは叶う。
 綺麗な衣服に実を纏ったハルカは、一人トイレに入っていった。
 私もその後に続く。
「楽しんでる?」
「カナタ! 今日は来ないって……」
 私は性急に唇を合わせた。
 そして、するりと口内に舌を滑り込ませる。
「んっ……ふっ……」
 子猫のような舌使いに、私はドキドキした。
「ねぇ、ハルカ」
「なに? カナタ」
 ハルカ、と呼ぶことが。カナタ、と呼ばれることが。
 たまらなく愛しい。
 体をバラバラに引き裂くような、その声。
 あなたの言葉で、私は殺されたい。
「あなたがどういう人生を送っていたのか、ずっと考えていたの」
「私もよ」
「答え合わせする?」
「しないほうがいいわ、これからも、私のことを考え続けて」
「素敵ね」
 もう一度、キスを交わす。
 キスをして、くすくす笑って。
「ね、体を触っていい? 背中とかお尻とか、撫でるだけ」
「カナタはえっちね」
「えっちなのが好きなんでしょう?」
「ふふふ、好き」
 そう言うと、ハルカは少し大胆に肌を合わせる。
「ハルカの胸はふかふかね。男の子にはもったいないわ」
「カナタのお尻も、引き締まっててセクシーだわ」
「あっ」
「可愛い声、濡れちゃうわ」
「カナタ、キスして」
「勿論」
 キスをしながら、スカートの中に手を滑り込ませる。
 下着の上から、撫でる。作意を持って。
「あっ、もう……いっちゃうわ」
「私にも、この孔に埋めるものがあればいいのに」
「そんなものより、カナタの指がいいわ」
「ハルカ……」
「あんっ」
「ね、指舐めて」
 そう言い、指を差し出すと、まず、指先にキスをして、ぺろぺろ舐める。
「えっちな顔してる」
 ハルカとの時間を楽しんでいると、トイレの外から、声が聞こえた。
 ハルカが戻ってこないから、探しに来たのだろう。
「この続きは、また今度、ね?」
「ええ、きっと」
 私達は身なり整え、ルージュを引きなおす。
「ハルカ」
 私と同じルージュを、ハルカにもつける。
「よく似合うわ」
 ささやかな、私の所有の証。
 ハルカは頬を染めて微笑み、トイレから出て行った。

【1】ハルカカナタ【日向ウララ】


ハルカカナタ
日向ウララ


「十八歳a」


 カナタは、私が高校生のときに、二年間だけ同じクラスになった人物である。
 同じグループだった訳でも無く、特別仲が良かったという訳でも無い。
 ただ、同じ時間を過ごし、同じ制服を着ていた。
 そんなカナタを、私が意識し始めたのは、一つのポーチがきっかけである。
 私は可愛いと思って、気に入って買ったポーチだったのだが、家族や友人からはセンスが悪いと言われていた。
 全然可愛くない、ダサいと言われた、私のお気に入りのポーチ。
 でも、私は本当に可愛いと思っていて、気に入っていたので、いつも持ち歩いていた。
 ある日、私は学校で急に生理になってしまい、そのポーチを持ってトイレに駆け込んだ。
 そこに居たのがカナタだった。
 そして、カナタは私と同じポーチを持っていた。
 目と目が合い、砂時計の砂が止まった。
 再び砂が落ちたとき、私達は理解した。
 もう一人の自分だと。

 その頃の私には、秘密がありました。
 私は、クラスの菅原君に恋をしていました。
 菅原君は、小学校からずっと同じクラスで、一度も離れたことがありませんでした。
 中学に入っても同じクラスで、そのことが運命としか考えられなくなりました。
 でも、あまり話をしたことも無く、居ても居なくても同じなんだと思う。
 菅原君は背が高くて痩せていてモデルのようなスタイルに、整った顔。
 私の学年で、一番モテる男の子でした。
 でも、本人は強引な女の子達に圧倒されて、彼女を作ったことはありません。
 私は、いつか菅原君と結ばれることを信じてやみませんでした。
 思い込みと勘違いで固められた、これが初恋でした。
 けれど、私は見てしまいました。
 これは、私だけの秘密です。
 雨の降る放課後の教室で、カナタと菅原君はキスをしていた。
 菅原君はカナタとこっそり付き合っていたのです。
 私はそのキスに見入ってしまい、お腹がきゅっと縮こまる。
 カナタは机に座っていて、菅原君はその前に立っている。
 カナタの頬に手を沿え、角度を変えながら、何度も。
 服の上から、カナタの胸を触って。
 カナタは小さく喘ぐ。
 そんなカナタの唇には、オレンジのグロス。
 あのとき、確かに私はカナタだった。
 私は思わず、舌で唇を舐めた。


「十八歳b」


 私は、三と言う数字が嫌いです。
 私は三人兄弟の一番上で、下二人は男の子。
 下二人はいつも仲良しで、何をするにも一緒。
 小さい頃はそんな二人の面倒を見る、しっかりした子だった。
 私が仲のいい子と二人で居ると、一人ぼっちの子を見つけてしまい、一緒に遊ぼうと声をかけることが多かった。
 でも、そうやっていると、結局私が独りぼっちになるのだ。
 誰も、私を一番に思ってくれない。
 オンリーワンになれないなら、ナンバーワンになろうと、何でも頑張ったし、結果も出した。
 そして、もっと、独りぼっちになった。

 私は、小さい頃から色気があった。
 そのせいかは定かではないが、初潮も早かった。
 私は、早いうちから女として生きている。
 小学校のときも、高学年になった頃には男と女の世界に居た。
 中学三年生のとき、初めてセックスをした。
 相手は、同じクラスの菅原君。当時付き合っていた。
 菅原君は私の学年で一番モテていたけど、セックスは自分勝手だった。
 まぁ、中学生なのだから仕方ないのかもしれないけど。
 自分は気持ち良かったのかもしれないけど、私のことを思いやることは無かった。
 私の言葉や意思を尊重してくれないのだ。
 別れるきっかけになったのは、私が生理で辛いとき、彼は行為を望むし、断ったらじゃぁ口でとか、見たり聞いたりしたプレイを望むのだ。
 若さ故かもしれない。落ち着いたら、いい人になるかもしれない。
 でも、私にそんな辛抱強さはなく、別れた。
 そのあと、大学生と一度寝た。
 中学生とセックスがしたいだけの、ろくでもない男だった。
 私は、ただ寂しいから、付き合っているのだろうか?
 私が、誰からも見向きもされないような女の子だったら、もっと違う人生だったのだろうか。
 私のクラスには、残酷な仕組みがあった。
 ペアになってと言うと、必ず女子は一人余るのだ。
 その一人は、大抵私だ。
 そのとき、三人でも良いと言う担任。
 でも、私は一人でも大丈夫ですと、まっすぐ前を向く。
 ハルカは、いつも一緒の親友が居て。
 親友と共に、穏やかに微笑むハルカは、確かに私だった。

 そして、天候に恵まれた日に、卒業式を迎えた。
 菅原君は女の子に囲まれていて、私に何か言いたそうだったけど、無視した。
 そして、家族と写真を撮っているハルカの手を握り、体育館の裏へ。
 じっと見つめあう。
 背が同じ位なので、まっすぐと。
「あなたは、もう一人の私だわ」
「私も、そう思っていた」
 ハルカは、微かに頬を染めて、そう言った。
 自然と近づく唇、ハルカは静かに目を伏せた。
 私はその唇にキスをした。
 そして、お互いに微笑み、何も言わずに別れた。
 それぞれの道に戻り、別々の人生を送った。


「二十歳」


 きっと、私は誰よりも幸せなのだろう。
 私は、成人式には参加しなかった。
 というのも、その頃はつわりが酷く、横になっていることが多かったからだ。
 私は大学に入り、人生で初めて彼氏が出来た。
 まじめで誠実な彼のことは好きだったけれど、心のどこかで、どうでも良いと思っていた。
 だから、喧嘩したことが無かった。
 私は、未だに菅原君のことが忘れられなくて、彼と結婚する以外は、全て妥協だった。
 私は、あなたに恋をしてしまったから。
 あなたに恋する前の私には、戻れない。
 けれど、お腹に新しい命が宿って、彼はまじめに誠実に責任を取ると、結婚することになった。
 私は、大学を中退することになった。
 そのとき、年老いた先生に、こう言われたのだ。
 君は君自身の可能性をまったく理解していない。君も、一つの命なんだよ。
 私はその意味が良く解らなかったけど、忘れてはいけないと思った。
 彼は大学を卒業後、就職し、良い父親になるだろう。
 私達は仲の良い、幸せな、夫婦なのだろう。


 きっと、私は誰よりも不幸なのだろう。
 私は大学生のときに一度妊娠した。
 コンドームも付けないようなろくでもない男と、酒の勢いでセックスした。
 結婚なんかする気も無かったし、私はまともに話し合いもせずに中絶することにした。
 お腹の子供が可哀想とか、そんなことを考えることも無く、ただ頭にきたのと、私も女の体なのだと、実感した。
 大学では服飾デザインを専攻していた。
 将来はファッションデザイナーになりたかった。
 その夢を叶えることも無く、家庭に縛られるのだけは嫌だった。
 主婦なんて、男に飼い慣らされているだけよ、私は男と対等でいたいの、そうやって気取っていた。
 だから、妊娠したことは誰にも打ち明けず、誰にも気付かれず、無かったことにした。

 私が中絶するとき、街中でお腹の大きいハルカとであった。
 中学校を卒業して初めて見かけたハルカは、穏やかで幸せそうな、母の顔をしていた。
 そんなハルカに、私は首を絞められたように息が出来なくなった。
 ハルカは道の脇のベンチに腰掛け、ハンカチを手にした。
 私はその隣に、すっと座った。
 ハルカも私に気付いた。
 微かに驚いた顔をして、その後に照れたように笑った。
 私も微笑み、ハルカのおでこにキスをした。
「ねぇ、ハルカ、キスをしていい?」
「え?」
「お腹の子に」
「ええ」
 私はかがみ、大きなお腹に、ちゅっとキスをした。
「私からの祝福よ」
「ふふ、この子のファーストキスね」
 私達は、連絡先を交換していないし、最近の近況なども、何も話さない。
 そんなことをしなくても、こうやって会えるし、何も話さなくても、見てきたように解るのだ。
 私達は、体を、心を、共有している。
「またね」
「ええ、また」
 そして、私は病院へ向かった。
 お腹をそっと撫でる。
 ごめんね、本当にごめんね。
 私は少し泣いた。
 なんで、生きるってこんなに面倒くさいのかな。
「疲れた」
 私は病院の前にあるバス停の椅子に腰掛け、空を見上げた。


 いきなりカナタと出会って、私は中学生の頃に戻ったようだった。
 カナタが去ってからも、私はぼんやり座っていた。
 お腹をそっと撫でる。
「あなたの中にも、きっと神様が住んでいるわ。とても優しい、あなただけの神様よ」
 ふと、空を見上げる。
 あなたはいつも、花の様に良い匂いがする。
 まだ、感じることが出来る。


 学生のとき。
 カナタの机を綺麗に拭いた。
 ハルカと、音楽の授業でハモると、とても綺麗だった。
 席が前と後ろになったとき、プリントを回すだけで、ドキドキした。
 体育の授業の着替えのとき、何度も目が合った、えっち。
 あのとき、カナタに。
 あのとき、ハルカに。
 愛していると伝えればよかった。

Appendix

プロフィール

日向ウララ

Author:日向ウララ
漫画家志望だったんですが、2011年1月に投稿した小説で、いるかネットさんにお世話になることになりました。
小説を書きながら珈琲屋店員、運送店助手をやっています。

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1作目「キスミーキスミー」(GL?TL)
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2作目「くるりくるり」(TL)
いるかクッキー
3作目「クッキーの匂い」(BL)
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4作目「うらら~日向ウララのおもちゃ箱~」(短編集)
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5作目「草食動物の歌」(GL)
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6作目「ふわりふわり」(TL)
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7作目「ばいばい」(ラノベ)
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8作目「うららら~日向ウララのおもちゃ箱2」
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9作目「背徳の雪」(GL)
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10作目「きらきら」(ラノベ)
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11作目「鳥籠の姫君」(GL)
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12作目「にこにこ」(TL)
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13作目「プレゼントフォーユー」(文芸一般)
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14作目「ソライロ」(短編集)
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15作目「ハローハロー」(TL)
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16作目「魚たちの呼吸」(GL)
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17作目「大好き、でも大嫌い」(男性視点)
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18作目「リサとナツ」(GL)
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19作目「大嫌い、でも大好き」(女性視点)配信開始
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20作目「天使達の教室」(GL)配信開始
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21作目「天使達の昼休み」(GL)
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22作目「天使達の放課後」(GL)
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23作目「恋じゃないです」(BL)
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24作目「恋じゃないと思うんだけど」(BL)
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25作目「恋でした」(BL)
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26作目「やる気も無いし金も無い!」(BL)
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27作目「やる気も無いし金も無いけど愛がある!」(BL)
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28作目「シロ」(GL)
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29作目「美しいバラには棘がある!」(BL)
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30作目「やる気も無いし金も無いけど明日がある!」(BL)

銀髪の男キャラに惹かれることが多い不思議。
最近は、金髪の男キャラの残念なイケメンに、めろめろ。ヘタレが好きです。
女キャラはボブくらいの長さにめっぽう惚れやすい。
永遠のヒロインは、CCさくらの、さくらちゃん。
作業中のBGMはアニソンか女アイドル。
声優さんのラジオを聴いていれば毎日元気。
最近は刀剣乱舞のミュージカルにも通っています。

穏やかで楽しい、毎日。

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